北九州で吉田栄作に絡まれたおかげの劇団愛。
2011年8月。劇団東京マハロは下北沢デビューを予定していた。
作品の内容もなんとなく、ぼんやりとあった。
その準備をしていた時に起き大震災。
読者の中にもたくさんの苦しみと悲しみを味わった方、いるのではないでしょうか。
私は幸いにも、身内や近しい人が失われることはなかったが
テレビから流れてくる悲惨な映像を見る度に気持ちは沈んだ。
「富」「生」「命」「財」「心」全てが失われていく現実に、
自分はこれからどう進むべきかを問う。
その時に出した答えが作品から「媚び」を捨てることだった。
それまでの私は「最後に泣かせて、家族が再生される」・・・的な
御涙頂戴、ハートフルな家族を描いた作品ばかり。
登場人物にみんな善人。その上「観客を泣かせたい」
つまりは媚びるという行為を優先させていた。
しかしそれは言い換えれば傲慢なマスターベーション。
作り手の勝手な妄想に酔っていた自分。
生きることは大変で、現実にはたくさん辛いことがある。
夢を見るんじゃなくて、現実を突きつける。
夏にイメージしていた内容を白紙にして、再度ゼロから作り直した。
作り直したテーマは「震災とボランティア」。
無職の男がボランティアを通して自分の正義を振り翳していく物語。
私は自分の思うままに、客に媚びを売ることなく書いた。
迎えた8月。無事に幕が開いた。
手応えがあるような無いような感じで日々が過ぎる。
初日、2日目、3日目・・・4日目の土曜日昼・・・
終演後、受付のスタッフから
「矢島さん、今の回ご覧になったお客様が、脚本家に会いたいと言っていますけど・・・どうします?なんか大きくて怖そうな方なんですが・・・」
心の中で「あーまた飯田監督の時みたいにクレーム言われるのか・・・」
憂鬱な気持ちで受付に向かった・・・
待っていたのは色黒で、大きくて、めっちゃ怖そうな男性。
すると男性は突然握手を求めてくる。
「いやー今まで見た舞台で一番面白かったよ」
そして男性は続けた・・・